出向協定による出向先の出張旅費減額調整の可否(日本原子力研究開発機構事件)

 出向協定は、あくまで出向元と出向先の間の契約であり、出向労働者の明示の同意がないことが多いと思われますが、このような出向協定を根拠に、出向先が出張旅費を減額調整できるかが争われたのが、日本原子力研究開発機構事件・神戸地判平成23年6月21日労働経済判例速報2118号3頁です。

 この裁判例は、出向協定が締結されている以上当然これに従うことになり、また、出向元も出向に際して給与及び出張旅費の取扱いについて説明しているとして、労働者側の差額請求を棄却しました。

 しかし、①出向による労働条件の一方的な不利益変更は認められないこと、②不利益変更について労働者の個別合意があったかも判決上明らかでないこと、③仮に意思の合致という意味での個別合意があったとしても、労働者の自由意思に基づく明確な合意があったいうのは困難なことから、この合意が有効とするのは困難なことから、上記裁判例の結論には疑問があります。

 なお、この裁判例に対する批判を含め、出向については、菅野和夫先生古稀記念論集の土田道夫著「『出向労働関係』法理の確立に向けて」が参考になります。